のらケミスト

中小化学企業で新規事業とか技術開発している人のブログ。技術的な話とか転職の体験談をご紹介。

【クリエイティブに役立つ思考方法】抽象度の上げ下げ

こんにちは。スーツのズボンに穴空いてました。。とりあえずホチキスで応急処置して出社してます。

今回は企画とかクリエイティブ要素のある仕事をするときにちょっと便利な思考方法をご紹介します。
問題にぶつかったときになんとか打開策を考えたい、でもいいアイデアが出てこない。先輩に相談したら一瞬で解決策出されて凹む。なんてことありますね。自分はなんて発想力が乏しいんだと。
イデアマンにそこそこ共通している特徴として、

  • 知識・経験が豊富
  • 視野・視点・視座の動かし方が上手

ということがあります。
ぶっちゃけ、知識・経験の寄与がめちゃでかいので、人生の先輩に勝てないのは気にしなくていいです。なんとかして経験というレアアイテムを入手できるよう日々チャンスを探しましょう。これが圧倒的に大事です。
1人でも練習できる小手先の技として、視野・視点・視座を動かすというものがあります。たまにこっちのほうが大事でアクションする前にいろいろな視野・視点・視座から物事を考えることで失敗がなくなるとかイノベーションを起こせるとか言う人いますがほっときましょう。若輩者のスタンスとしては「考える前にとにかくチャンスに飛び付く」です。
という前提のもと、視野・視点・視座を動かすことができるテクニックについてご紹介します。

抽象度を上げ下げする

抽象度を上げたり下げたり、いろんな具体化レベルで思考することで思考の探索領域が大幅に広がります。
その方法論について以下に書いていきます。

抽象度が高いとは?

物事を俯瞰する、目的を考える、カテゴリーで考える、次元圧縮する、モデル化する、近似計算する、曖昧な状態、なんとでもとれる発言、具体的なアクションが見えない、ピカソ、のようなことです。

抽象度が低いとは?

物事を詳細に検討する、手段を考える、個別案件、複雑なテンソル計算、実測、法律文書、具体的なアクションとスケジュール、ギュスターヴ・クールベ、のような感じです。

抽象度の上げ方

日本人は手段を考えることが得意と言われています。なので抽象度を下げる方向の思考は特にアドバイスするまでもなくみなさんできると思うので割愛します。

目的⇔手段という上下関係を意識する。

△△(手段は)○○(目的)のためにする。
△△(手段)によって○○(目的)を達成する。

包含関係を意識する

△△は○○に含まれる。
△△なものは必ず○○である。

因果関係を意識する

△△すると○○が起こる。
△△だから○○である。

有名なトヨタ式:なぜと5回問う。

なぜ?を考えるたび思考が一段上か下のレイヤーに行きます。
目的を問う「なぜ」と、原因を問う「なぜ」があります。

図式化する

上位概念⇔下位概念
目的⇔機能⇔物理
の順番を守って可視化してみましょう。
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上下関係の入れ替えをばんばんやりながら整理するので、ポストイットを使うと便利です。

例題 みかん

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例題 掃除

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次は、仕事でありがちなケースを考えてみましょう。

AIによる現場改善

現場のエースで将来を期待されていた課長のAさんは突然本部長会議に呼び出されこんなことを言われます。

「近年AIの民主化がかなり進んでいるようでね!うちもAIをやって高利益率の骨太体制を構築すべきだと思うのだ。でだ、私が普段懇意にしているコンサルX社の調査結果から、AIで現場の効率を50%も改善できるという驚異的な提案が出てきたのだ!現場のことをよく知っているA君には是非コンサルX社とタッグを組んで現場にAIを導入してもらいたい!どうだね!?」

まずなんのこっちゃかわからないのでコンサルX社を呼んで話を聞きます。すると、同業他社Y社では、テキスト自動生成&電子アーカイブ、承認プロセスの電子化、社内SNS等で50%の効率化が実現できたという導入実績を説明されました。
Aさんの会社は未だに神エクセルで業務が回っている大手老舗超優良企業だったため、確かに改善効果は高そうだとAさんも直感的に感じコンサルX社とがっちり握手を交わしプロジェクトを開始しました。

業務洗い出し

同業とはいえY社とは社内システムが違うので自社にはどんなAIが適用可能か、現状を調査します。
工事発注作業にかかる工数が非常に大きいことがわかりました。

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工事内容の打ち合わせ→仕様書作成→上司へ説明&承認→工事工程管理書作成→上司へ説明&承認→環境安全部へ説明&確認→リスクアセスメントシート作成→上司へ説明&承認→環境安全部へ説明&確認→発注依頼書作成→上司承認→購買部へ仕様書と依頼書送付→購買部より発注→着工→各種書類に終了確認記入→保管

書類仕事が多いのでRPAの導入で改善が期待できます!

業務内容の可視化

具体的に何をどう改善可能か、可視化してみました。

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ここまでやって、Aさんはなんだかもやもやした違和感と昔感じていた感情が甦ってきました。
「そもそも、工事内容の打ち合わせで全部明確に業者と合意形成しているのに、誰も見ない工程管理書作ったり、打ち合わせ内容コピペしているだけのリスクアセスメントシート作る意味がわからない!!」
そこで、それぞれの作業の目的に翻って考えてみることにしました。

目的構造の可視化

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ルールを決めた当時の背景はわかりませんが、今時点では工程管理書とリスクアセスメントシートはコンプライアンス遵守していることの証拠として作成している意味合いしかないことがわかってきました。
本来は作業員の安全確保するにはどうすればよいか考えるためのシートだったはずですが、今となっては形骸化していました。ただ神エクセルに合わせて文書や構成を考える必要があり、無駄な手間ばかりがかかっています。

ここまでの検討で可視化された、書類を作る目的と、書類が持つ機能を整理します。

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究極的には、「企業価値向上」、「企業価値毀損回避」、「個人の利益の最大化」が活動の目的となりそうです。
これら目的、機能を満たす手段を神エクセル含めて最適設計するのがよさそうです。
現場の安全、コンプライアンス遵守を確保しつつ、工数を劇的に削減可能な新規プランを提案しました。

新規プランの提案

重要ポイントとしては、

  • 担当者は実質的に必要な作業(工事内容検討、現場の安全確保)に時間をさけるようにする
  • コンプライアンス遵守の証拠づくりは自動化
  • 社内で既得権益化している環境安全部の業務にメスを入れ機械化(環境安全部員によるダブルチェックが機能するのは環境安全部員の質が担保されている場合で、近年はその質が下がっていることが問題となっており、むしろ機械化することがダブルチェック機能の強化につながる)

実施提案として、

  • 「仕様」、「業務内容」、「安全に関する事項」の3部構成からなる工事打合せ議事録フォーマットを作成。
  • 議事録から仕様書、工程管理書、リスクアセスメントシートを自動生成。
  • 各書類は、過去事例から類似案件を検索し、漏れている観点を補完。担当者はこれを確認。
  • 環境安全部がこれまでリスクアセス、書式のダブルチェック機能を担ってきたがこれは機械で代替したので環境安全部の確認工程を排除。

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このように抽象度、目的と手段の思考レイヤーをいったり来たりすることで現状を俯瞰的に把握でき、良いアイデアに行き着くことができます。
今回の事例での、コンプライアンス遵守の証拠書類としての存在意義しかなくなってしまっていたリスクアセスシートのように、昔からの積み上げ式で出来上がってきたシステムには形骸化してしまいムダになってしまったものが多かったりします。当たり前を疑うための思考テクニック活用してみてください。

その後、Aさんは海外支店への転勤となり、プロジェクトはBさんが引き継ぎ、コンサルX社に言われるがままRPAを導入して、神エクセルへの入力の手間は多少軽減されたものの、相変わらず環境安全部で書類が止まる状況は改善されなかったようです。
なぜAさんが海外支店へ栄転することになったかというと、Aさんは業務改善以外の大事な目的を見落としていたようです。

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管掌役員からしたら手っ取り早くAIなるものが導入されるだけで成果になると考えていました。
仮に効果が大きかったとしても環境安全部というほかの役員の領域まで踏み込んだ提案なんて出してほしくなかったわけです。
サラリーマンって難しい!!