のらケミスト

大手化学メーカーから素材系ベンチャーに転職した人のブログ。技術的な話とか転職の体験談をご紹介。

【化学企業の現場】表面処理の化学

こんにちは。
今回は表面処理技術についてです。
表面処理は雑な扱いをしても割りと予想通りのことが起こるので好きです。

表面処理の基本

表面に出ている官能基と相互作用のある分子 (表面処理材)をくっつけます。
すると、表面の物性が母材の物性ではなく、くっつけた分子の先っぽの物性になります。また、母材が表面処理材に被服されるため母材が保護されます。簡単ですね。

表面処理材の構造

低分子とか高分子とかゾルゲルとかいろんなものがあるのですが、一番分かりやすい低分子で考えます。
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結合性部、リンカー部、機能部の3つの部位を持っています。
結合性部は母材と相互作用のある官能基です。
リンカー基はあってもなくてもいいですが、たとえば微粒子分散したいときは分散媒と親和性の高い構造を使うと良いです。
機能部は、表面に何か機能を持たせたいときに適当に選びます。

表面処理した材料表面

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こんな感じで結合性部が母材と結合し、外側にリンカー部と機能部が出ます。この絵のように一分子分の厚みで膜が形成されているものを自己組織化単分子膜といいます。最表面に出ているのは機能部なのでその外側から見たら母材が隠されてますので機能部の表面物性が見えるということになります。

結合性部

母材との相性で適切な官能基を選ぶ必要があります。*引用元
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表面処理でできること

  • 表面エネルギー制御
  • 微粒子分散
  • 仕事関数調整
  • 接着、密着性向上

など。

表面エネルギー制御

表面に何かくっつくわけなので、母材とは異なる表面エネルギーを持つことになります。
例えば自動車のフロントガラスの水はじきをよくしたいと思いましたが、ガラス自体は親水性です。水はじきをよくしたいからといって、フロントガラスをテフロン板にすることはできません。不透明ですからね。こんな状況で表面処理剤を使います。表面処理剤をガラス表面にくっつけることで、ガラスの透明性や耐久性を維持しながら、表面だけはガラスではない物性にすることができます。
例えばSiO2表面にフッ素系のシランカップリング剤を用いることでガラス表面にフッ化アルキルが並びガラス表面の疎水化されます。
最表面には機能部が並ぶことになるため、機能部の表面エネルギーが最もよく表面物性に反映されます。
シランカップリング剤の使い方ノウハウは別記事で記載します。

微粒子分散

砂糖は水には溶けるけどサラダ油は水に溶けにくいですよね。
砂糖の構造とサラダ油の主成分の構造を並べます。
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水はご存知H2Oです。
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分子同士が溶け合うかどうかは、SP値とか小難しい概念はありますが、基本的には似た者同士が溶け合います。砂糖は水に似たOH基をたくさん持っていて、一方サラダ油は大きな分子の中で一個カルボン酸を持っているだけです。なので、水と砂糖は相性いいけど水と油は相性悪いということになっているわけです。
微粒子を溶媒に分散するときも同じことが言えます。微粒子の表面に溶媒に似た構造が出てれば分散しやすいですし、表面に似てない構造が出てれば今度は微粒子同士が集まる凝集が起きます。
そこで表面処理材の出番です。
例えば浸水性の代表格シリカですが、水に入れるとわりと透明性の高いゲルになりますが、ヘキサン入れると白いパサパサした何かになります。これはシリカ表面にOH基がたくさん立っているため、水と仲良くヘキサンと仲悪くなります。このシリカ粒子にアルキル鎖を持ったシランカップリング材をくっつけてやると、水に溶けず、ヘキサンに溶けるようになります。

仕事関数調整

電気的な接合も表面で起きていることのため表面処理材が活躍します。
半導体と金属を接合すると、ショットキーバリアなる抵抗というか電位差が発生します。
これは半導体と金属それぞれが持つ電子のエネルギー (仕事関数)が異なるために発生しています。異なるエネルギーを持った2つの材料をくっつけたとき、接合界面の電子はエネルギーが一致しなければなりません(フェルミエネルギーの一致)。すると半導体では金属に引っ張られるようにキャリアが増えたり減ったりします。これが抵抗というか電位差になって電流が流れにくくなります。
一方で、フェルミエネルギーが一致している2物質を接合するとオーミック接合となり抵抗というか電位差が発生しません。
表面処理材を選ぶことで物質表面電子のエネルギーを調整することができます。
アルキル基のような電子供与基を機能部に持つ表面処理材を用いれば仕事関数は大きく (浅く)、フッ化アルキル基のような電子吸引基を持つ表面処理材を用いれば仕事関数は小さく (深く)なります。この性質を活かしてオーミック接合を作ったり、逆にショットキーバリアを作る研究がなされています。

接着、密着性向上

いわゆるプライマー処理ですね。基材と塗料の間になんら相互作用の無い場合、塗料はとても剥がれやすくなります。そこで、基材と塗料の間に、基材と結合する結合性部と、塗料と結合する機能部をもつ表面処理材をくっつけてやります。すると、表面処理材が基材と塗料を橋渡しするため密着性が向上します。