のらケミスト

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ハロゲンフリーエポキシ合成のトレンド【化学企業の現場】

こんにちは。
今回はハロゲンフリーエポキシ合成手法をまとめてみました。

従来のエポキシ合成

一般的にエポキシは、ヒドロキシ化合物とエピクロルヒドリンを反応させることで合成されてます。
NaOH等の塩基で水酸基を金属ヒドロキシドにし、
ヒドロキシドがエピクロロヒドリンのエポキシ環の炭素にアタックしてクロロヒドリンが生成します。
このクロロヒドリンが分子内エーテル化でエポキシ化します。

さて、こんな反応機構なので副反応がたくさん起こります。
結果、塩素がいっぱいついた副生成物が発生するんですね。

低ハロゲン化の要求

この塩素ですが、とても嫌われています。
1990年代に、塩素を含む樹脂を燃やすとダイオキシンという毒ガスが発生すると話題になり、環境への配慮からハロゲンの規制が一気に進みました。
現在ハロゲンフリーは銅張積層板を対象として、JPCA-ES01:ハロゲンフリー銅張積層板試験方法で規格が決まっています。

塩素含有量0.09 wt% (900 ppm)以下
臭素含有量0.09 wt% (900 ppm)以下
塩素+臭素含有量0.15wt% (1500 ppm)以下

電材料分野においては、電子部品の微細等に伴う信頼性向上の要求から、さらに低いハロゲン濃度のエポキシ樹脂が求められ始めています。

ただ、上述したように、現在のエポキシ合成はその反応機構から、どうあがいても塩素を含む副生物が発生します。
一生懸命精製することで低塩素化する取り組みもありますが限界があるため、まったく新しい反応を用いて低ハロゲンエポキシを合成する研究がかなり増えてきています。
特許出願数の推移を見ると、2010年ごろから指数関数的に伸びており、大きなトレンドになりつつあります。
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オレフィンを過酸化水素でエポキシ化するものが多いようです。[1]
その一部をご紹介します。

過酸化水素による電子不足オレフィンのエポキシ化

塩基と過酸化水素で電子不足なオレフィンをエポキシ化する方法です。
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反応機構こんな感じです。[2]
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pH = 10以上にするとせっかくできたエポキシ環が開環してしまうそうなので、反応中のpH制御はシビアに行う必要あり。

ポリアミノ酸等、様々な触媒が検討されています。[3], [4], [5]
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過酸化水素による電子リッチオレフィンのエポキシ化

系中でペルオキシカルボイミドを生成し、それによってオレフィンをエポキシ化する方法です。
ニトリル化合物と過酸化水素によるペルオキシカルボイミドの生成。[1]
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ペルオキシカルボイミドがオレフィンと反応してエポキシが生成します。[6]
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こちらもpH = 10以上でエポキシ環が開環します。

一例としてWO2018/083881の実施例を紹介しておきます。
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ペンタエリスリトールをアセトニトリルとメタノールに溶かし、
50%KOH水溶液でpHを調整し、
過酸化水素水を18時間かけて滴下、
さらに30時間反応させることでエポキシ化しています。

こちらの材料ですかね。
https://www.sdk.co.jp/assets/files/information/2017/internepcon2017/05_A4.pdf

タングステン酸触媒によるエポキシ合成

タングステン酸に過酸化酸素を反応させ、過タングステン酸にし、オレフィンと反応させてエポキシを得る方法も知られています。
昭和電工の研究では、アリルエーテルタングステン酸ナトリウム、リン酸、アミノメチルホスホン酸とを反応させることでエポキシを得ています。[8]
なんか反応性が妙に低い気もしますが、きっといいデータは隠しているのでしょう。大企業ではよくあることです。
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タングステン酸の亜流みたいなものですが、大阪大学でノンハライト®という触媒が開発されています。[9][10]

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フルオロアパタイト中にタングステン酸+アルキルアミン+リン酸系の触媒を分散させた固体反応場に、アリルエーテル過酸化水素を染み込ませて放置しておくとエポキシができるというもの。
粉体反応場ということでちょっと特殊ですが、反応性はよさそうですね。
基質、触媒、過酸化水素のみを使用し、副生物は水のみということなので、今後さらに不純物量を減らしたエポキシが求められたときに効果的なエポキシ合成法になるかもしれません。
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ノンハライト®は日本材料技研が取り扱っているようです。
https://www.jmtc.co.jp/products/NonHalite_JP.pdf



こんな感じでハロゲンフリーなエポキシ合成法がいろいろ研究されてきています。エピクロロヒドリン法が置き換わる日も近いかもしれません。

参考文献

1) 園田昇、堤繁「過酸化水素有機合成への応用」、(http://seisan.server-shared.com/21/215-2.pdf)
2) Hiro, 「過酸による求核的エポキシ化 Nucleophilic Epoxidation with Peroxide」, (https://www.chem-station.com/odos/2009/07/-nuculeophilic-epoxidation-wit.html)
3) Giacomo Carrea et al., TRENDS in Biotechnology, vol. 23, 507-513 (2005).
4) Mauro Marigo et al., J. Am. Chem. Soc., 127, 19, 6964-6965 (2005).
5) David Diez et al., Current Organic Synthesis, 5, 186 (2008).
6) Hiro, 「プリリツェフ エポキシ化 Prilezhaev Epoxidation」, (https://www.chem-station.com/odos/2009/06/prilezhaev-prilezhaev-epoxidat.html).
7) WO2018/083881, 昭和電工株式会社.
8) 内田博「アリルエーテルを原料としたエポキシ樹脂」, 『ネットワークポリマー』35, 1 (2014).
9) Junko Ichihara et al., Green Chemistry, 5, 491-493 (2003).
10) 市原潤子, 「ワンランク上のハロゲンフリーエポキシ化合物の製造方法及び製造装置の開発」, (https://shingi.jst.go.jp/past_abst/abst/p/15/osaka-u/osaka-u11.pdf).

 


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