のらケミスト

中小化学企業で新規事業とか技術開発している人のブログ。技術的な話とか転職の体験談をご紹介。

挑戦する組織の理論【大企業サラリーマンの標準装備】

こんにちは。
某社では頻繁に新規○○部とか、イノベーション部とか、チャレンジングな名前を冠した組織ができます。
でもたとえこういう組織を作っても、チャレンジングなアウトプットが出てくることはとても少ないイメージがあります。
なぜなのか??
シミュレーションしてみることにしました。

前提

  • 全社戦略は「既存事業」(確実に成果が出る)と「新規事業」(失敗するかもしれない挑戦)へのリソース配分問題に簡略化
  • 全社戦略が役員ー所長ー部長ー課長ー平社員のラインでブレークダウンされてくる
  • 大企業サラリーマンの自身の業務設計は、成果が上がることが確定している「定常業務」と、失敗するかもしれない取り組みである「挑戦」へのリソース配分問題に簡略化
  • 課長以上は目標設定をし、アウトプットは現場の平社員が出す
  • 成果主義(成功は高得点、失敗は0点)
  • 定常業務を100%こなした場合100点となるとする
  • 挑戦は失敗する可能性もあるが成功したときの加点が大きい(挑戦の成功により100点以上の点数を取ることも可能)
  • 社員は80点以上の仕事をしたいと考えている

各ポジションの仕事

  • 社長は全社戦略を構築する。全社戦略は既存事業と新規事業のリソース配分を決めることである。
  • 役員は既存事業か新規事業か担当が与えられ、各所長の目標設定をし、所長への指示する。
  • 所長は役員の指示に従い、目標をブレークダウンし、各部長の目標設定をし、部長へ指示する。
  • 部長は所長の指示に従い、目標をブレークダウンし、各課長の目標設定をし、課長へ指示する。
  • 課長は部長の指示に従い、目標をブレークダウンし、各平社員の目標設定をし、平社員へ指示する。
  • 平社員は課長の目標設定に従い作業を行い、成果を出す。

パラメーターの説明

既存事業:CS
新規事業:NS
定常業務:RW
挑戦:NW

全社の挑戦量の計算

全社でどのくらい失敗するかもしれない作業が発生するかを計算する。
社長は新規事業にNSだけリソースを投入します。
役員はNSのうち、NW分を挑戦として下に指示します。
所長はNS×NWのうち、NW分を挑戦として下に指示します。
部長はNS×NW×NWのうち、NW分を挑戦として下に指示します。
課長はNS×NW×NW×NWのうち、NW分を挑戦として下に指示します。
平社員はNS×NW×NW×NW×NWのうち、NW分の挑戦を実施します。
したがって、全社における挑戦量は以下のように計算されます。
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変数に適当な数字を入れてみます。
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社長が全社戦略として新規事業に10%のリソースを投入する意思決定をしたとしても、
投入される人材が手堅く成果が得られる行動を取ると、
全社として0.003%しか挑戦がなされないという計算になります。


表の一番上の条件で、全社戦略のパラメーターをいじってみると以下のようなプロットになります。
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90%新規事業やるぞ!といっても現場にはさほど反映されてません。

では、他のパラメーターをいじってみましょう。
社員の業務配分を変えた場合、
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会社の組織階層数を変えた場合、
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ということで、社長が号令かけるより、社員の意識改革や組織改革したほうが会社としての挑戦は増えるということがわかりました。

社員1人1人の挑戦が全社として大きな動きになる!

社員1人1人が挑戦の量を増やすと、全社的に指数関数的に挑戦量が増えます。
1人1人のちょっとした意識改革が、会社全体でものすごい大きな効果を生みます。

千里の道も一歩から。
数万人の大企業で挑戦の文化を根付かせるためには、1人1人が小さい挑戦をしていくことがとても大事ということですね。

挑戦したいなら社長直轄組織しかない!

大企業というのは組織階層が深いことも1つの特徴です。
組織階層が深いと現場における挑戦量はものすごく小さい値になります。
会社的には本当に挑戦的なことをやろうと思ったら、社長直轄組織にするしかないのでしょう。
逆に、イノベーションとかなんとかかっこいい名前がついていても、階層の深い組織だと挑戦はできないと考えていいかもしれません。

全社戦略は挑戦の上限を決める

今回の計算では、大企業の全社戦略が現場に与えられる影響というのは実はとても小さいという結果になりました。
一生懸命立派なスローガンを掲げても現場は動かない。
ただし、
全社戦略で設定したリソース分しか挑戦には投入され得ない
ことだけは確かです。
どんなにやんちゃに人を集めても、全社戦略で設定したリソース以上に使い込まれることはないですね。
全社戦略というのは実は安全装置の役割だったと考えていいかもしれません。
従業員は中計とか全社戦略に過剰に期待しちゃいけませんね。

社員は定常業務、挑戦の配分をどう決めるのか?

役員含含め従業員は、会社から低くない評価を得ることに強いモチベーションがあります。
高い評価は得たいですが、低くないことのほうが重視されます。(プロスペクト理論
なので、計画段階から一定の成果が上がることを盛り込むのが普通のサラリーマンかと思います。
業務の100%全部、博打みたいな目標設定する人は絶対にいないですよね。

このあたり、そのうち考察したいなと思います。