のらケミスト

中小化学企業で新規事業とか技術開発している人のブログ。技術的な話とか転職の体験談をご紹介。

用途特許の有効性【化学企業の現場】

こんにちは。
用途特許の有用性について、社内で侃々諤々の議論をして決着つかず弁理士にまで相談した案件。

用途特許では自社製品を守る効果は限定的。

  1. 用途特許ってなに?
  2. 直接侵害
  3. 間接侵害?
  4. 共同正犯?
  5. 間接正犯?
  6. 最近議論した事例

用途特許ってなに?

ある製品の特許があったとして、その製品を使った製品の特許のことです。
「すごい歯車」とそのすごい歯車を使って作った「すごいロボット」があったとき、すごいロボットが用途特許にあたります。
車屋さんからみたとき、歯車が自社製品なのでロボットまでやる気はないんだけどロボット特許を出しておく、というのが所謂用途特許になります。
ロボット屋さんからみたら、すごいロボットを使った「すごい物流システム」みたいのが用途特許になります。
立場によって用途特許なのか製品特許なのか変わりますよという話です。
さて、問題は、
「すごい歯車」に特許性がなかったりして、仕方なくロボットに用途を限定して新規性・進歩性を主張するようなケース。
本当は歯車の特許が取れれば自社製品を直接守れるんだけど、それができなかったときの次善の策として、用途特許で戦いたい、というときどうしたらいいでしょう?

直接侵害

誰かがクレームに書かれたモノを販売したり、書かれた方法をやっていたら直接侵害として差し止め請求と損害賠償請求ができます。

間接侵害?

モノ特許の場合、

例えば、「AとBから構成されるC」というクレームがあったとき、以下のケースで間接侵害としてCの部品であるAやBのサプライヤーを訴えられます。
①AやBがCにしか使えないものだった場合、
②AやBがCに使われるもので、かつ、課題解決に必須で、かつ、Cに使われることを知りながら作ったり販売したりした場合。

方法特許の場合、

例えば「Aという工程と、Bという工程と、Cという工程を含む製造方法」というクレームがあったとき、以下のケースで間接侵害として誰かを訴えられます。
①特許の方法を実行するしかできないモノを作った人、
②特許の方法を実行するためのモノで、かつ、課題解決に必須で、かつ、それが特許の方法に使われることを知りながら、そのモノを作ったり販売したりした人。

ん?何言ってるかわからんよ?

例えばこういうことです。
「スポンジに洗剤をつける工程と」
「スポンジで食器を擦る工程と」
「洗剤を流す工程と」を含む
「食器を洗う方法」
という特許をある清掃業者が取得したとします。
他社が、
「アームがスポンジに洗剤をつけ」
「アームがスポンジで食器を擦り」
「シャワーで食器をすすぐ」
という動作をスイッチひとつで自動で行う食器洗い機を開発して販売したとします。
この食器洗い機の動作は上記方法特許に抵触していることがわかります。
こんな装置を販売されたら清掃業者は商売あがったりなのでなんとかしたい。
しかし、この食器洗い機を使うのは食器洗い機のユーザーで、特許の方法を使用するのもユーザーということになります。
ユーザーは業として食器を洗わないので特許侵害の対象外です。
こんな状況で泣き寝入りせずに済むように間接侵害として特許の方法のみを実行するための装置を作った食器洗い機メーカーも訴えられるように制度設計されているのです。


上記のケースは、一人が特許を侵害しているケースです。
特許の基本は、一人がクレームに記載されたことを全部やったら、その人は特許侵害したことになる、というもの。
では複数人で分担して特許侵害しているケースはどう考えたらいいのでしょうか?

複数主体による特許侵害

一人で実施するのがNGなら会社またいで共同で実施すればOKじゃない!?
とか考える人も当然いるわけです。
そんなん許されないでしょ!と直感的には思いますが、一人で実施する場合に特許侵害になるのが基本です。
なので、複数人で分担した場合、基本的には特許侵害になりません。
でもそれなんかおかしくない!?納得いかない!!
と思うこともあります。レアなケースですが複数主体の特許侵害が認められることもあるそうです。

共同正犯?

複数人で共謀して特許侵害することです。
A工程とB工程とC工程を含むDの製造方法、という特許があったときに、
X社:「うちでAB工程やりましょう」
Y社:「ではうちはC工程やりますよ」
X社, Y社『これでこの特許の方法を実施できますな!』
っていう感じで共謀して実施するとNGになることがあります。
ただし、共謀したことを立証する必要があったりと訴訟のハードルは高い。

間接正犯?

共同正犯と同じく、複数人で特許侵害しているケースで、一部の人たちが意図せず共犯になっているパターンです。
ある主犯格が他のプレーヤーを道具として利用した結果、複数人で特許を実施したと認められる場合、主犯格を訴えることができます。

最近議論した事例

議題

モノ特許、モノの製法特許はなく、用途の製法特許のみが登録されている状況で、モノ売りビジネスをしたらどうなるか?

登録されている特許

原料を配合して成形材料を作る工程と(A工程)、
成形材料を成形する工程(B工程)と、
を含む成形方法。

やりたいビジネス

A工程により作られる成形材料を成形業者または成形品メーカーに売りたい。

成形材料売りビジネスにおいて、この特許で他社の牽制になるのか?

結論:あまりならない。
特許の基本的思想として、一人がクレーム全部実施したらアウト。
複数で分担して実施した場合は誰も特許を実施していないことになる。
なので、基本的には競合成形材料メーカーは特許侵害したことにならない。
出願時に成形材料ビジネスができるようなクレームにしてない奴が悪い。自業自得。

しかし、何事にも例外はあります。あくまで例外なので希なケースです。

競合成形材料メーカーを訴訟できる可能性のあるケース

【共同正犯】
成形材料メーカーと成形業者がたとえば以下のような打ち合わせをしてこの方法を実施した場合、共同正犯として成立する可能性がゼロではありません。
「こういういい特許があるんですが、うちだけで実施すると抵触してしまうんで一緒にやりませんか?」
「いいですね!工程を会社で分ければ特許回避できるわけですね!」
「そのとおりです!」
「ではうちで成形材料を作って御社に納めますので御社で成形してください。」
「承知しました!一緒にやっていきましょう!」
という状況で、

  • このような協議がなされた証拠(議事録やメールですかね)
  • 成形材料メーカーが実際に特許の方法で製造している証拠
  • 成形業者が実際に特許の方法で成形している方法

これら証拠を揃えることができればもしかしたら特許侵害と判断される可能性があります。


【間接正犯】
成形材料メーカーが、

  • 特許の存在を知っていて、
  • 特許の方法を使用し、
  • 積極的に成形業者を巻き込んで、
  • 成形材料の素性(組成、製法等)を開示せずに、
  • 成形材料を成形業者に納入し、
  • 成形業を実行させた場合、

成形材料メーカーが特許侵害をしたと判断される可能性があります。
成形材料メーカーがウェブ販売している成形材料を成形業者が買って成形業を行う程度の関係性では成形材料メーカーの積極性は認められにくそうだなーと言う専門家の意見。

成形業者を訴えられるかもしれないケース

成形業者が社内で全部実施していたら当然アウトです。
では成形業者が成形材料メーカーを使って成形材料を委託生産し、成形業を行った場合、成形業者が特許侵害となる可能性があります。
この場合、成形業者に成形材料を自社から購入するよう警告できる可能性があります。


という感じで基本的には特許侵害にならないけど、例外がないこともないということでした。
用途の製法特許で守れるモノの範囲はすごく狭いから役に立たない、と判断しました。


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