のらケミスト

大手化学メーカーから素材系ベンチャーに転職した人のブログ。技術的な話とか転職の体験談をご紹介。

Industrie 4.0 調べてみた その8 〜化学産業の将来像を考察〜

こんにちは。
これまで⻑々連載させていただきましたが、やっと最終回です。

まず、前回までのおさらいです。

第⼀回:世界各国でこれからの製造業界のあるべき姿、特にIoT、ロボット、AI技術を取り込んだ製造業の姿を考え始めてるよ。
tamagoyaki1999.hatenablog.com


第⼆回:Industrie4.0は製造業を細かくモジュール化しようとしてるよ!
tamagoyaki1999.hatenablog.com


第三回:モジュール化すると性能上がるわ価格は下がるわでユーザーメリットが⼤きいよ!
tamagoyaki1999.hatenablog.com


第四回:⾼付加価値領域と低付加価値領域の組み合わせで製品アーキテクチャを設計し、⾼付加価値領域を⾃社でクローズし、低付加価値領域を新興国に任せるという、グローバル斜形分業が⼤事だよ!
tamagoyaki1999.hatenablog.com


第五回:管理シェルはコンポーネントをモジュール化しネットワークに接続するためのもので、デジタルツインは現実世界の各コンポーネントをデジタルで再現するためのものだよ!
tamagoyaki1999.hatenablog.com


第六回:管理シェルとデジタルツインを組み合わせると、製造業をコーディングできるようになるかも!
tamagoyaki1999.hatenablog.com


第七回:新興国でモノを作って売る、先進国はプラットフォームを提供して世界のGDPからちょっとずつマージンを引き抜く、そんな新しいグローバル分業の形が現れ始めているよ!
tamagoyaki1999.hatenablog.com


今回は、 これまでの話を統合して、これからの製造業の有り得る姿を考察します。(実現へのハードルの⾼さは無視しますね)

f:id:tamagoyaki1999:20190815215419p:plain
⼀例として、上図のような世界を想像しました。

ユーザーは製造サービスプラットフォームから必要なサービスを選び、
各サービスの詳細をプログラムすることで、
⾃⾝の実現したい製造プロセスをサイバー空間で組み⽴てます。
これを実⾏すると、サイバー空間上で構築された製造プロセスが、現実空間で再現され、製品がアウトプットされます。

例えば、ある起業家Aさんが、独⾃組成の樹脂を⽤いた⾯⽩いプラスチック成型品ビジネスを思いついたので、製造サービスプラットフォームから、樹脂合成サービス、成形サービス、物流サービス等を選び、⾃⾝のアイデアをプログラムに書き起こし実⾏しました。
このとき、プログラムに記述するのは、「どういう樹脂を合成する」、「どういう成形加⼯をする」、「どこに届ける」という感じの、製品仕様に関わる情報くらいです。

f:id:tamagoyaki1999:20190815215452p:plain

すると、Industrie4.0コンポーネントとして登録されている樹脂合成企業群、プラスチック成形企業群、物流企業群からラインの空き状況が⾃動的に確認され、最⾼効率なサプライチェーンと加⼯スケジュールが⾃動⽣成され、製品が製造されます。

f:id:tamagoyaki1999:20190815215517p:plain

起業家Aさんは、合成、成形、物流など、各⼯程の現場で何が起こっているか知識もなければ感知もしませんが、製品を⽣み出すことができました。

これまでは製造業を営むには、⼤きな資本をもって⾃社⼯場を経営するか、サプライチェーンを構築するためにパートナー企業を探して現場を巡る必要がありました。
製造サービスプラットフォームを使えば、そういった障壁は取り除かれます。
さらにスケールアップもプログラムを書きかえるだけで柔軟に対応できるため、少量のテストマーケティングから⼤量⽣産までシームレスにスピーディに移⾏できます。

こんな世の中になったらワクワクしませんか?
Webの利⽤コストが劇的に下がったことでアイデア勝負のITベンチャーが⼤量発⽣したように、現時点では初期投資が⼤きく⽐較的成功しづらいと⾔われるモノづくりベンチャーが⼤量発⽣するようになるかもしれません。

こんな世の中を実現するためにはどうしたらいいでしょうか。

スマート⼯場のモデルとなるマザー⼯場が誕⽣

⼯場内の設備、⼈、在庫、サプライチェーンとの連携などのデジタルツインを実現、全⾏程をデジタルで再現できるようにします。
デジタルツイン技術をベースに、管理シェルを設計し、各⼯程をモジュール化します。
モジュールの組み合わせで構成されたマザー⼯場が誕⽣します。

Industrie4.0コンポーネントとしてのスマート⼯場を普及させる

f:id:tamagoyaki1999:20190815215556p:plain

IoTやロボット技術を駆使したスマート機器で構成された、管理シェルによって規格化されたスマート⼯場を普及させます。(スマート⼯場は標準化されたコモディティです)
この際、スマート⼯場のモデルとなるマザー⼯場がどこかにあることが想定されます。
マザー⼯場では、スマート⼯場群から上がってくるデータを集約し、スマート⼯場の管理・運営・保守、⼯程の改善、新⼯程の研究・開発などを⾏います。
⼀⽅、スマート⼯場群はオペレーション業務のみを⾏います
マザー⼯場は⼀企業が所有するかもしれませんし、標準化団体が所有するかもしれません。
スマート⼯場群を⽤いてモノづくりをするのは、⼈件費、物流コスト、税制、国内市場サイズなどを考慮して、最も安くモノづくりできる企業でしょう。

スマート⼯場普及の際にも、プラットフォーム獲得競争が起こることが予想されます。
第四回で紹介したPCのビジネスモデルのように、だれかがスマート⼯場の基幹部品とリファレンスデザインを組み合わせたプラットフォームを提案して、デファクトスタンダードを獲得するかもしれません。
そのとき、基幹部品となるのがIoT化したスマート機器のようなものかもしれませんね。

コモディティ化したスマート⼯場と、それらの進化を制御するマザー⼯場という構図ができたとします。

スマート⼯場を束ねるプラットフォーマーが誕⽣し、プラットフォームを活⽤するユーザーが出現

f:id:tamagoyaki1999:20190815215634p:plain
歴史的に、ある製品がコモディティ化すると、その上位レイヤーにプラットフォームが出来上がります。
PCが普及したらその上位レイヤーにクラウドサービスが出現しました。
スマート⼯場もコモディティ化したのちは、共通のIT基盤上で管理・運営されるようになると考えられます。
さらに、IT基盤の汎⽤性が⾼まるにつれ、広く広くIT基盤とスマート⼯場が公開されるようになり、それを利⽤するユーザーが出現してくるでしょう。
ユーザー、プラットフォーマー、スマート⼯場群、マザー⼯場、スマート機器(基幹部品)メーカー、といったプレーヤーが揃うころには、新しい⽔平分業の形が出来上がっていると考えられます。
f:id:tamagoyaki1999:20190815215703p:plain

プレーヤーは誰になる?

  • ユーザー:技術への理解がなくともモノづくりができるようになるため、ベンチャー企業、商社、メーカー、広告代理店、IT企業など多業種からの参⼊の可能性があります。
  • 製造プラットフォーマーここはITシステムになるので、メーカー系プラットフォーマー(GE,Siemensのようなところ)とIT系プラットフォーマーAmazon, Google, Intelなど)の参⼊が考えられます。メーカーはモノづくりの強みがあるうちに⾏動したほうがいいかもしれません。GEはモノづくりのノウハウの強みがある今なら、GoogleAmazonに取り込まれずに済むと考え、独⾃ITプラットフォームのPredixを作ったそうです。IT系プラットフォーマーはモノづくりのノウハウを何とかして取り込もうとしてくるでしょう。(以前記事を書きましたが、AIの知財もその⼿段になるかもしれないと思い怖いなと思ってます。)
  • スマート⼯場(Industrie 4.0コンポーネンツ):メーカー。ここはマスプロにもマスカスタマイゼーションにも対応するために、相当安価な企業が参⼊する必要があります。そのため、⼈件費、税制等で、とにかく安く作れる企業が⼊るでしょう。技術⼒は、マザー⼯場を持つ企業から供給されるため⼼配無⽤です。
  • マザー⼯場:既存のリーディングメーカー企業。技術⼒、政治⼒、資本⼒、経営⼒などのある企業が先導するのではないでしょうか。Boschはもうスタートしています。オークマなど、⽇本でもスマート⼯場化へ踏み切る企業は現れています。もしある先進企業の技術でマザー⼯場ースマート⼯場群の構図が出来上がると、その技術や標準に関わらない企業は、先進企業の技術で武装した低コストなスマート⼯場群との競争にさらされます。
  • スマート機器:機器メーカー。(知識不⾜でここまでは想像⼒が働きません。。)

ビジネスモデルは?

このような⽔平分業を構想したときに、第六回で考察したように、どこを⾼付加価値化及び低付加価値化し、それぞれ誰に担当させるか、というパイの奪い合いが起こるでしょう。

⼀番簡単な構図としては、まずスマート⼯場群が低付加価値化し、途上国に普及します。プラットフォーマー、マザー⼯場、スマート機器メーカーは途上国の成⻑から何らかの形(利⽤料、保守、機器販売など)マージンを獲得します。また、ユーザーはスマート⼯場群を利⽤してカスタム製品を安く⽣産し、ハイエンド市場で利益を上げます。

このように、この世界観全体のスケールでもパイの取り合いは起こるでしょうし、マザー⼯場とスマート⼯場の関係の中や、スマート機器とマザー⼯場の関係の中のような⼩さい枠組みでも起こるでしょう。
いずれにしても、優位なポジションを獲得するのは、最初にエコシステムを描いて周りのプレーヤーを先導する企業です。
仮にこんな世の中になったとしたら、どのポジションにいたいですか?

今回考察した将来像は、世の中の動きを調べた結果私はこう思いました、というものなので、ほかにも可能性は無限にあるとは思います。
いくつもシナリオを想定して、それぞれに準備しておくことが重要だと思います。

参考図書

技術を強みに事業を展開するために知っておくべき事実。競争力は技術力も込みの総合的な力で決まる。

技術力を強みに事業展開するための代表的な戦術。

プラットフォーム企業と呼ばれる超大手企業がとっている戦略を科学的に論考。